辺境の雑記帳2nd

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消えた票、どこに?2019年参院比例区の堺市美原区開票

2019年参院選比例区の開票時、堺市美原区で、YOSHIKI(日本共産党の山下よしき候補)の開票が「ゼロ票」になった問題。

この問題では、美原区の有権者が「山下よしき氏に投票したが、自分の票はどこに?」として票の再点検を求めたが、堺市選挙管理委員会は「一度封をした投票用紙の再開封は手続き上できない」とした。そのため有権者が堺市を相手取り訴訟を起こしたが、2023年1月に大阪高裁で棄却された。

この事案について考察した論考がある。「三春充希(はる) ⭐第50回衆院選情報部」氏による『【特集】第26回参院選(2022年)共産党――疑惑の「ゼロ票」 』

note.com

この論考では、結論として、「山下よしき」と投票された票の束が、氏名表記が似ている国民民主党の「山下ようこ」候補の票の束の場所に誤って紛れ込んだのではないかと結論づけている。

この論考は大筋で当たっていると感じる。

訴訟の担当弁護士も、大筋でそのような見立てをして訴訟に臨んだという。

事案の詳細については論考に詳しいのでそちらに譲るが、付け加えていうと、

  • 共産党の参議院比例代表での選挙戦術は、一般有権者には「党名」での投票を呼びかけ、重点候補全員をそろって当選させることをめざす。
  • 一方で、「個人票の得票順位で党内当選順位が決まる」という非拘束名簿方式のために、重点候補を確実に当選させるため、共産党本部は重点候補を地域割りし、その地域の党員には地域の重点候補の個人名での投票を呼びかける。
  •  共産党の支持者は、個人名で投票してくれる人もいる。選挙カー要員の二次候補にも、票が入っていることもある。
  • また一般的にいっても、候補者の地盤地域や、出身地など、候補者にゆかりのある地域では、他地域と比較して個人票が伸びる傾向がある。
  • 共産党に限らず他党にも共通するが、マスコミ露出の多い候補者や、政党の最高幹部級などの候補者には、比例区でも個人票が集まる傾向がある。
  • 共産党でも、マスコミ露出の多い候補者や、最高幹部級の候補者には、党の公式方針を飛び越えるような形で、一般有権者からと思われる形で個人票が全国的に集まる傾向がある。2016年には市田忠義、2019年にはYOSHIKIと小池晃、2022年にはたむとも(田村智子)の各候補者は、共産党が重点地域に指定した担当地域以外のところでも全国的に広く個人票を取っていた。
  • YOSHIKIは大阪府在住で、参議院大阪選挙区での出馬・当選経験もあり、2019年参院比例区でも大阪府を重点地域にした候補者でもあった。いわば大阪の地元の候補者でもある。
  • 大阪の共産党は、最近は勢力が低下気味だとはいえども、どの自治体・行政区(開票区)でも、低いところでも7~8%程度はとれるほどの支持はある。
  • YOSHIKIはマスコミ露出などの機会もしばしばあり、共産党には制度上の党首制度はないが、一般的には副党首級的な扱いをされるポジションの要職を歴任もしている。

という条件がある。

これらを総合すると、山下よしき票が大阪府内の自治体・行政区でゼロになるとは、考えにくいことである。実際、大阪府内の他自治体では、YOSHIKI個人票は開票区ごとに数十票~数百票の得票を得ていた。

さすがに意図的に変なことをした不正があったとまでは思わないが、何らかのミスがあった可能性が高いと疑われることになる。

そこで、美原区の開票結果を当方でも確認した。すると、名前表記の似ている国民民主党の「山下ようこ」候補が、周辺地域と比較して異様に票が突出していた。この方のプロフィールを確認すると東京の方で、美原区とは縁がなさそう。地元枠だから地元票が取れたとかそういう条件ではなかったみたい。

そのことを元に、消えた「山下よしき」票の行方はそうではないかという推論は、かなり高い確率で成り立ちうるだろう。

しかし、票の再点検については、法令上できないと断られて訴訟になり、却下された経過。

現行法の立て付けとしては「そうするしかなかった」案件なのかもしれない。しかし投票した人にとっては、たまったものではない。

たまたま当方の支持していた候補者と同じ人や、居住地は違うものの同じ人の支援者がこういうことになったとはいえども、それ以前に有権者の立場としては、たとえどの政党のどの候補者への投票であっても、こういうことが起きると困る。

救済措置を考えられるような法改正などはできないのだろうかと感じる。

また、参議院比例代表での非拘束名簿式での開票の煩雑さの問題も、ミスを誘発しているようにも思える。届け出た政党の「政党名」で投票されたもの+名簿登載者の「個人名」、合わせて200以上となる。

今回のYOSHIKIの事例に限らず、ある候補者の個人票の束が、似た名前表記の候補者の束の中に紛れ込んでしまうミスは、これまでも各地でいくつも報告されている。開票の際にミスを防ぐような仕組み作りも重要だし、それ以前に制度自体が複雑すぎるのではないかという点についても、検討していくことが必要だろう。