辺境の雑記帳2nd

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「都構想」で防災強化にはつながらない、逆に脆弱になるおそれ

維新の海老沢由紀大阪市議(東成区選出)が、消防についてミスリードさせる宣伝をしていたらしい。

[caption id="attachment_9285" align="aligncenter" width="604"]海老沢ツイート 海老沢由紀市議のツイート(キャプチャ)[/caption]

これは明らかにおかしい。

大阪市の消防は今でも一元的に実施されている

現行でも大阪市消防局の消防指令は一元化されている。119番は最寄りの消防署につながるのではなく、西区・九条の消防局本庁の指令センターで一括して受けることになっている。

指令が、火災か救急かなどの事故の種類、また事故の規模などを判断したうえで、通報現場最寄り消防署をはじめ、周辺消防署、消防署を市域の東西南北でブロック化した「方面隊」などに指示し、必要な人員や設備・車を手配し、緊急出動することになる。

大阪市内にある消防署――24行政区各区それぞれに1か所の本署、各消防署管内にそれぞれ数カ所ずつ設置されている出張所、および大阪港の水面と港区の陸上区域の一部を管轄する水上消防署――は、必要に応じて管轄区域外にも入ることになる。

また大規模災害など必要に応じて、周辺自治体にも相互応援体制に入る。2005年の兵庫県尼崎市での福知山線脱線事故では、大阪市消防局からも大量に救援に入った。

さらには消防指令についても、市境付近からの119番で他市の消防本部につながった場合は大阪市に自動転送する仕組みができている。

この体制で、消防の初動が日常的に遅れている・支障が出ているという苦情などは聞かない。また「都構想で消防指令が一元化される」というのも、事実ではないということにもなる。

「都構想」と「消防の初動」には何の関係もない。維新は公式のビラでも、「都構想」によって消防車や救急車の到着時間が早くなるように言い立てているが、直接の因果関係はないことなので、必ずしも事実ではない。

[caption id="attachment_9312" align="aligncenter" width="274"]維新プレス 維新発行のビラ「維新プレス」2020年9月15日発行の記載。※この内容は不正確[/caption]

事実ではないことを宣伝し、「都構想」につなげようとするのは、消防局の現場の努力を無にするものではないのか。

消防の権限が奪われることで考えられる弊害

近隣自治体での連携をより強化するための「消防の広域化」という概念はある。

しかしながら「都構想」での消防の扱いは「広域化」ではなく、基礎自治体としての大阪市が持っている権限を、主に広域調整機能・バックアップ機能が中心の大阪府に召し上げることで、消防・防災についての権限を遠くするもの。

大阪府からみれば人口比で3割程度に過ぎない現大阪市域の消防について、府が決めるとなると、7割の市外選出議員の動向が市内の状況についての方針を左右することになってしまう。もちろん府議は自身の選出選挙区だけでなく大阪府全域の代表として責任を負うものではあるが、必ずしもそういう対応で動く府議ばかりとは限らない。実情を十分に把握していない府議が把握しないままに決めるおそれも捨てきれない。特別区区域が7割を占める東京都とは大きく異なることになる。

さらに大阪市では、高層ビルが多数あることや古い住宅密集地も多数あることなど、都市としての特徴にあわせて、消防の装備などについても地域の実情にあわせた独自の進化があるという。府に召し上げられることで設備が平準化することも考えられ、実情に合った活動がやりにくくなるおそれもある。実際、消防学校の府市統合で、府全体としての一般的な初任者教育の後で改めて大阪市独自の初任者教育をおこなう必要性が生じたという矛盾も出たという。

http://oskweb.wpblog.jp/post-5103/

防災体制も脆弱になるおそれ

また防災の問題では、仮に「都構想」に移行した場合は消防だけでなく、役所の防災担当の配置に関する無策も指摘されている。

大阪市此花区でおこなわれたシンポジウムでの指摘。特別区役所では複数庁舎に分散されることや、そもそも担当職員がどれだけ配置されるか不透明なことで、防災体制に不備が出るのではないかという指摘もされている。

[caption id="attachment_9303" align="aligncenter" width="600"]しんぶん赤旗2020年9月16日付より しんぶん赤旗2020年9月16日付より[/caption]