辺境の雑記帳2nd

ニュースや時事問題の考察など

迷いクジラと大阪市の対応(続) 標本化めぐる対応

2013年1月に大阪市付近の淀川河口に現れたマッコウクジラ。「淀ちゃん」の愛称も付いたが、残念ながら1月13日に死亡が確認された。

このクジラについては、「標本にしたい」という意向を持っていたとする報道があった一方、松井一郎大阪市長は「そのような申し出はなかった」「海から来たのだから海に帰してあげたい」として、市として海洋投棄の方針を決めた。1月18日には、淀川河口に流れ着いた死骸の曳航・撤去と、ガス抜き作業や調査をおこなったのち、1月19日に紀伊水道沖の海に帰された。


大阪市立自然史博物館が、この間の経緯を公表している。

2023年1月のマッコウクジラのストランディングと標本化に関する経緯について」と題する館長名の声明文(2023年1月19日付)では、冷静で客観的な筆致ながらも、無念さがひしひしと伝わってくるような内容となっている。

標本化を希望する意向を大阪市博物館機構に伝え、関係先に掛け合い、標本化作業の具体的な場所や手順、費用面などの工面などは補助金が使えることなど、具体的な提案をして市の関係先に掛け合ったが、かなわなかったことが記されている。

自然史博物館が標本化の意向を持っていたとする報道は事実だったと、当事者の口から語られた形になっている。では、松井市長が記者会見で「博物館からの標本化希望の申し出などは受けていない」かのような発言をおこなったのはいったい何だったのか。

自然史や生態系などの研究には、多くの標本がある方が考察が進みやすいとも聞く。マッコウクジラについては、自然史博物館ではメスの標本「マッコ」があるが、オスとメスで形状が大きく違うことなども、今回発見されたオスのクジラの標本化を希望した背景にあるともされている。

ほかの機関所属の研究者・専門家と共同で、投棄の準備作業の合間を縫っての限られた時間内での調査をおこない、一定のサンプリング調査ができ、今後成果がまとまったときには公表したいなどとしている。その結果には期待したい一方で、標本化すればもっと詳細な調査ができたのではないか。

学術的には重要な資料ともなりうるものを、大阪市が投棄の方向に持ち込んだのは、極めて残念であり、無念に感じる。博物館側の声明では「解体場所の確保や悪臭対策など様々な事情を勘案しての総合的な判断だと思われます。」とその立場上詳細には踏み込んでいない。一方でそのあたりの行政判断については、市民の立場から解明していく手立ても必要ではないかとも思われる。