日本共産党埼玉県議会議員団と同党埼玉県委員会ジェンダー平等委員会が2023年6月、埼玉県に対して、モデル撮影会での県営施設の会場貸し出しの中止を求める要請をおこなった。
このことは日本共産党埼玉県議団のウェブサイトでも大きく宣伝し、また「しんぶん赤旗」の首都圏版(地方面)でも紹介された。
埼玉県営公園で女性の水着撮影会が行われます。未成年も出演するという情報については調査中です。城下のり子・伊藤はつみ・山﨑すなお県議は、本日、都市公園法第1条に反するとして、貸し出しを禁止するよう県に申し入れました。https://t.co/mbFYa9uHOz https://t.co/OtojtOm9N5
— 日本共産党埼玉県議会議員団 (@jcp_sai) 2023年6月6日
【性の商品化は 許さない】
— 秋山もえ Moe Akiyama (@moe_akiyama) 2023年6月8日
県営施設を使い、未成年を含めたモデルに、水着で「わいせつなポーズ」もさせる撮影会が実施されようとしていましたが、党県委員会と党県議団の県への申し入れで、中止となりました。
「卑わいなポーズを撮らない」というのが公園貸し出しの際のルール、と県。重要です! pic.twitter.com/JkZPbgFLbL
その直後に、埼玉県が事業者側への貸し出し停止を決定したことで、共産党および埼玉県への批判と反発が広がっている
共産党申し入れの問題点
伝えられているところによると、共産党は「水着撮影会に未成年者がモデルになっていた事例があった」「撮影会そのものも性の商品化」などと主張したという。
そして埼玉県は、「(共産党の申し入れと関連があるのかは明言していないが)県民から、未成年者の水着撮影会をしている情報提供があった」などとして、未成年者水着撮影会に関与していない別事業者も含めて、また開催日時が2日後に迫っていたものも含めて、同種の撮影会の一律中止を事業者側に要請し、事業者側は飲まざるをえなかったという。
この事案の問題点は、以下のように切り分けて別個に解決する必要がある。
- 一部の撮影会で、「未成年者を水着モデルに登用した」「その中で、モデルに不適切なポーズを取らせるなどした」ということがあったらしいとされていること。
- 巻き添えで何の関係もないイベントまで中止に追い込まれたこと。しかもその中には、2日後に開催を控えているものまで中止させられたこと。(※巻き添え部分については、後日中止要請を撤回)
- その背景には共産党が1.の不確定情報をつかんで騒いで、違反があったとされる当該イベントにとどまらず、同種事業者のイベントまでまとめて、「撮影会自体が性的でけしからん」とばかりの宗教右派的なジェンダーでの保守道徳押しつけ(「フェミニズム」と間違えられているが、フェミニズムでもなんでもないバックラッシュ)で圧力をかけ、県もその通りにしたこと。
- そのことで、主催者やその周辺(参加予定だった成人モデル、参加者への弁当などの注文を受けていた業者)などに損害を与えたこと。
こういうことがまかり通ると、別分野でも気に入らない言論や表現が規制されることにつながること。公権力や圧力団体などによる、その集団にとって意に沿わないとみなした活動への妨害・弾圧などが正当化されることにもつながりかねないこと。
これは、切り分けで別個に解決すべき課題を、「性的なものだからはしたない」という宗教右派的で雑なくくりにしてごっちゃにして、憲法の表現の自由などに抵触し、気に入らない表現活動は弾圧してもいいとばかりの圧力となってしまっている。
未成年者の水着モデルへの登用で、またその際に埼玉県の会場貸出規定に反する行動があったと指摘されたらしいということは、それが事実と確認できた場合は当該者に個別対応することまでは否定しない。
しかし違反だと指摘された事業者は一部にすぎないことや、共産党が申し入れをおこなった段階では「どうもそうらしい」という不確定情報で、むしろ「撮影会自体がけしからん」かのような対応を前面に出していた。
今回の共産党埼玉の対応は、「あいちトリエンナーレ」での河村たかし名古屋市長の対応――「昭和天皇に関する展示に問題があり、それは昭和天皇への侮辱だ」として、自分の主義主張を持ち込んで認定した上で、行政として中止させたり非協力にするのは当然とばかりに、実行委員会を構成する一員だった名古屋市は実行委員会の負担金を支払わないと振る舞った。――とどこが違うのかと、疑問に思わざるをえない。
都市公園法1条を根拠としているが、これを根拠にするのは、逸脱しているのではないかとも、行政法の方面からは指摘されている。
そもそも共産党のジェンダー平等の方針からみても、このような申し入れをおこなうこと自体が表現問題との衝突から誤りだとは考えられるが、一部の悪質な「フェミニスト」の悪影響を受けて、みずから掲げた政策方針すら投げ捨てて独自解釈し、おかしな方向に進んでいるようにも感じる。
支持派の雑な論理すり替え
この問題を支持するものからは、上記の「別個に切り分けて解決すべき問題」であることを無視して、批判者を「表現の自由戦士(表自)=ロリコンネトウヨ」などととんでもない罵倒がみられる。
しかし、そんなものは感情的な罵倒でしかない。
追記
大野元裕埼玉県記事は2023年6月12日の記者会見で、イベントの許可条件に違反していない事業者へも一律に中止要請をおこなったことは適切ではなかったとして、6事業者中4事業者の企画については許可取り消しの撤回要請をおこなうよう、管理者の埼玉県公園緑地協会に指導し、関係先に謝罪したことを明らかにした。
埼玉県の撤回の判断は妥当なものだとはいえる。